東京都市大学等々力中学校の「アクティブラーニング型入試」
東京都市大学等々力中学校の「アクティブラーニング型入試」をレポートします。〈取材・撮影・文/福原将之〉
赤いビブスをまとった受験生が集う朝
「noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)」の精神のもと、「高潔」「英知」「共生」を教育理念に掲げる東京都市大学等々力中学校。同校が10年にわたり磨き続けてきた独自の選抜が「アクティブラーニング型入試」(以下、AL入試)です。
午前7時30分、最初の受験生が姿を見せました。試験会場と待合室を兼ねた「つばさホール」には、8時10分の時点で既に半数以上が揃います。受付を済ませた受験生は、会場で赤いビブスとネームカードを受け取ります。このビブスは検査Ⅰの作文から着用し、そのままグループワークへと続きます。8時30分、出欠確認が始まると先生方が一人ひとりの顔とビブスの番号を丁寧にチェックします。67名が挑む倍率9.6倍——その数字を知ってなお、この入試を選択した受験生たちの表情には、緊張と静かな覚悟がにじんでいました。
見た目は4教科入試——黙々とペンを走らせる検査Ⅰ
8時50分に問題冊子が配布され、9時のチャイムとともに検査Ⅰが始まりました。
前方のスクリーンには大きなタイマーが映し出されます。試験時間は30分です。今回の題材は、社会心理学で知られる「アッシュの同調実験」。資料として実験の概要を説明する文章と図表が提示されます。受験生はまず資料から読み取れる事実を整理し、そのうえで自分なりの考察を筋道立てて述べることが求められました。今年の入試問題は「資料の読み取り→要点整理→自分の意見を根拠とともに表現する」という構造になります。
会場を見渡すと、受験生たちはこつこつとペンを走らせ、消しゴムで書き直しては推敲を重ねています。赤いビブスを着けて黙々と筆記に向かうその姿は、写真だけ見れば4教科入試と区別がつきません。しかし問われているのは知識の量ではなく、思考を深めて自分の言葉で表現する力でした。大人でも答えに迷う設問に、みっちりと文章を書き込む受験生が多く見られます。9時30分、終了の合図とともに受験生たちは一斉にペンを置きました。
自己紹介から始まるグループワーク——検査Ⅱの幕開け
9時35分、在校生の誘導で受験生たちは6つの検査室に分かれていきます。
等々力中のAL入試ならではの特徴が、AL入試を経て入学した在校生の中から12名の中1〜高2の有志生徒が試験運営のサポートに加わっている点です。先輩たちの姿は、受験生にとって「入学後の自分」を想像する手がかりにもなっているのではないでしょうか。
検査Ⅱの説明が始まる10時までの時間、受験生たちは各検査室で待機します。注目すべきは、学校側から自己紹介をするようにといった指示は一切ないにもかかわらず、どの部屋でも自然と自己紹介が始まったことです。ある部屋では地元トークで盛り上がり、別の部屋ではジャンケンで自己紹介の順番を決める姿も見られます。聞けば、こうした自然発生的な交流は毎年のことだそうです。9時50分頃にはほとんどの部屋で和やかな会話が広がり、試験中とは思えないほどの賑わいを見せる部屋もありました。
10時になると、問題冊子が配られます。先生に「ありがとうございます」と声をかける受験生の姿が印象的でした。2分間で課題とデータに目を通すよう指示が出ると、先ほどまでの和やかさから一転、真剣な表情で問題冊子に見入っていました。切り替えの早さに、受験生たちの意識の高さが表れていました。
一度決めた結論を覆す——ジグソー法を変形させたグループワーク
検査Ⅱのグループワークは、協働学習で知られる「ジグソー法」を変形させた3段階構成で進みます。ジグソー法とは、各自が異なる情報を持ち寄り、ジグソーパズルを組み合わせるように全体像を完成させていく学習手法ですが、今回はそこにさらにひとひねり加えた設計がなされていました。
最初の20分間は、全員が同じ資料をもとにチーム全体で一つの案をまとめます。データを根拠にしながら、さまざまな提案が飛び交いました。
続く15分間で、受験生は2〜3人の小グループに分かれます。ここからが、この入試の真骨頂です。各グループにはそれぞれ異なる立場の資料が配られ、先ほど全員でまとめた案では対応しきれない論点が浮かび上がる仕掛けになっています。一度合意した結論を覆さなければならない——この意図的に設計された「対立」の中で、攻撃的にならずに自分の意見を伝え、グループの調和を保ちながら議論を深められるかが問われるのです。
最後の25分間では、各グループの情報を持ち寄って全体で案を練り直し、発表の準備に入ります。残り5分を切ると議論は白熱し、身振り手振りを交えて意見をぶつけ合う姿や、発表に向けて手際よく役割分担をするチームの姿がありました。最初は緊張で硬かった部屋も、話し合いが進むにつれすっかり打ち解けていたのが印象的です。グループワークの締めくくりとして、各チームが2〜3分の発表を行いました。発表では全員が必ず一度は自分の言葉で話す場面が設けられていました。
議論を俯瞰できるか——振り返りで問われるメタ認知
発表後、受験生たちは在校生の誘導で元のホールに戻り、11時30分から15分間の個人振り返りに取り組みました。ここでは、グループワーク全体を客観的に振り返り、自分自身の関わり方を言葉にすることが求められます。
検査Ⅰの作文で思考を深め、検査Ⅱのグループワークで他者と対話し、最後の振り返りで自分自身を俯瞰する——この三層の構造がAL入試の骨格です。豊かな教養と思考力が求められる「英知」、異なる意見を受け止めて協働する「共生」、そして自分の行動を誠実に省みる「高潔」。同校が教育理念として掲げる三本柱が、そのまま入試の設計に反映されていることに気づかされます。
どの受験生も回答欄の8割ほどを丁寧に埋めており、自己評価の高い子もいれば、慎重に言葉を選びながら振り返る子もいました。残り4分を切った頃には既に書き終えている受験生もおり、直前のグループワークでの体験を、迷いなく言葉にできていたようです。11時45分、すべての試験が終了。最後にアンケートに答えて、受験生たちは会場を後にしました。
「その場での対応力と、内なる可能性を見たい」、その思いとは
今回、AL入試の責任者である安房先生にお話を伺いました。
今年度のAL入試の設計思想について、安房先生は次のように語ります。「一度決めた内容を覆すという構造を取り入れています。困難な状況で攻撃的になるのではなく、アサーティブに——自分の意見を大切にしながら、相手の意見も尊重して——議論を進められるかを見たいのです」。
評価の核心はメタ認知能力にあるといいます。「グループ全体を俯瞰して、状況や改善点、自分の貢献を客観的に分析できる力。それこそが入学後の学びを深める土台になります」。
AL入試の過去問を原則非公開としている理由についても伺いました。「対策をしてきた受験生ではなく、その場での対応力や、一人ひとりの内なる可能性を見たいからです」。この言葉は、同校が掲げる「noblesse oblige」の精神——高い志を持つ人間を育てるという教育の出発点そのものだと感じました。
導入10年目にして倍率9.6倍というこの入試の背景には、入学後に力を発揮できる生徒を丁寧に見極めたいという学校の揺るがない信念がありました。今年度の受験者は67名(男子24名、女子43名)に対して合格者はわずか7名、S特選コースの合格者は0名という結果が、この入試の選抜としての重みを物語っています。
導入10年目を迎えてなお進化を続ける等々力中のAL入試に、今後も注目していきたいと思います。
なお、受験生が試験の雰囲気を知る機会として、毎年12月の入試説明会では過去問を使ったAL入試体験会を実施しているとのことです。実際のグループワークに近い形式を体験できる貴重な場ですので、AL入試に関心のある来年度以降の受験生は、ぜひこの説明会に参加してみてください。
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