LOVELY LIBRARY 第25回·トキワ松学園中高の図書館《特別編》
情報誌『shuTOMO』2025年11月9日号でご紹介したトキワ松学園中学校・高等学校の「LOVELY LIBRARY」取材時に先生方に伺ったお話を、特別編としてWebでお伝えします。〈取材・撮影・文/ブランニュー・金子裕美〉
「思考と表現」誕生秘話
田村校長 「思考と表現」を教科として立ち上げるのはしんどかったと思いますが、同様に高2の個人探究と結びつけるところも大変だったのでは?
小澤先生 「思考と表現」1年目の個人探究をやり終えたときに、私たちのほうから担当の先生方に、「何か困ってることはありませんか」「(こちらの)授業を少し変えるようなことも込みで、私どもにできることはあればおっしゃってください」と、お話しました。先行研究の文献を探すところがすごく不足していました。「そこがないと……」というお話があったので、「私たちのほうで、それを調べる時間を取りましょうか」と言って、「思考と表現」に組み込むと、だいぶスムーズになってきました。
勝見先生 「高1にこれとこれを両方いっぺんに課すのはちょっと負荷が多すぎるよね。じゃあうちのほうは簡易版にして、その分、ここでたっぷり時間を取るようにしようか」というように柔軟に考えて、提案することができました。私たちは定点ですが、学年は回転していきます。「去年こうしたら良かったですよ」というような提案もできますし、「じゃあこちらではこういうことを提供しましょう」というように、私たちのほうでも工夫をしながら進めてきました。
本の力は大きい。今も子どもたちの心を動かす
小澤先生 「本離れ」といわれていますが、本当にそうなのかなって思います。
勝見先生 生徒たちの周りには、もっと刺激的なアイテムがたくさんありますから、昔ほど本というアイテムに重きを置かれなくなったのは確かだと思います。不読者と言われる人たちの数も増えていますしね。ただ、先ほど小澤が「ここ(図書室)で新しい出会いをしている子もいる」と話したように、本には力があるので。いい時期にいい出会いをすれば、「本離れ」って嘆くことではないのかなと、個人的には思います。
小澤先生 それこそ私たち教員がビブリオバトルをやって見せるときに、どういう本が紹介されても、生徒たちは前のめりな状態で見ていますから、本の紹介をしてもらうのはすごく楽しいのではないかと思っています。最後に「読みたくなった」などと言いながら、群れていることもあります。逆に、多読の人たちが本当に本を読めているかというと、そうとは言い切れないので、むしろ本を読むことができていない人たちに、本を読む機会と、読んだときに心を動かされる環境を渡せるといいなと思っています。
勝見先生 読書も成長していくことが一番望ましいんですよね。子どもの頃に本に触れる機会があり、体と心が成長していくに従って、読書も成長していくというのが、おそらく理想だと思います。そのスタートは幼いときに限られたことではなく、その子が始めたところから成長してくれればいいのですが、できるだけ早い時点でそういう出会いがあって、そこから順当に成長していってくれると、いい読書人生を送れるのではないかなと思います。
生徒たちが好む本はどんな本?
勝見先生 小説が多いです。
小澤先生 キュンキュンする、恋愛要素がある作品が好きです。同じぐらいの年代の子のことが書かれているものを借りていきます。逆に、ファンタジーはあまり読んでくれなくなりました。
勝見先生 (生徒が手に取る)ファンタジーは「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズぐらいです。
小澤先生 占いものも好きですよね。「鬼遊び」がやたらと好きです。「銭天堂」と同じ作者(廣嶋玲子さん)だからかもしれませんが……。
勝見先生 読まなければいけないような気持ちにさせられるのかもしれません。「恋とポテトと夏休み」はバイト先でキュンキュンするお話です。
小澤先生 作者の神戸遥真さんは、そういう恋愛要素をちょっと含む作風で、生徒たちの年代ぐらいを読者ターゲットに書いているような感じなので、(生徒たちは)好きです。
-ライトノベルは入れない方針ですか。
小澤先生 涼宮ハルヒさんの作品は1冊入っていますが、ラノベはあまり入ってないと思います。よく他の学校の方がここの図書室を見にいらっしゃると、「こんなに硬めの蔵書で、生徒はよく読みますね」と言われます。なければないで、本は動いているのですが……。
勝見先生 図書室にはいろいろな本があっていいと思います。空間とお金が無尽蔵にあれば、それもありだと私は思います。うちにはこれしか空間がなくて、書棚が今きつきつですし、本の価格も上がっていますから、このような蔵書になっているということです。
-蔵書数はどのくらいですか。
勝見先生 4万2000冊です。そのうち、図書室に出している本は3万7000冊です。スペースに限りがあるので、内容が古くなってしまったものは廃棄しています。廃棄した分を、翌年購入する形になります。ですから優先順位をつけなければなりません。そこで選書が重要になります。うちの基準で入れられる本かどうかを吟味しながら選書しています。
先生方の本との出会いとつきあい方
勝見先生 私は一人っ子で、親が仕事をしていたので、気がついた時には、近所の図書館で本を借りてきて読んでいました。子ども時代は常に本が身近にあって、心を満たしてくれました。旅行に行かなくても、広い世界を知ることができます。未知のものと出会うことができます。いろんな人生を体験できるということを、私は全部、本の中でやってきたように思います。人生で最も本を読んでいたのは小、中学生の時期です。1日に1冊ぐらいのペースで読んでいたような時期もありましたが……。今は自分の家族や仕事など、私の満たされない部分を満たしてくれるものが他にあるものですから、そこまで本は、私の人生の中で愛されていないかもしれません。私との蜜月はもう終わってしまった感じで、今はビジネスパートナーです。距離を置いた関係ですが、私の人生がもう少し落ち着いてきて、余力が出てきたら、昔の恋人と会うこともあるかもしれません。
小澤先生 私は本を読むことが、そんなに好きじゃありません。幼い頃から本を読むスピードが遅かったからです。ただ、小学4年生ぐらいのときに「モモ」(ミヒャエル・エンデ)を読んで、こういう面白い世界があるんだ、と思いました。そういう経験があれば、(本を好んで読んでいなくても)読まなくなるわけではありません。私は本がある場所が好きですし、本を扱うことも好きなので、司書教諭になりました。今思うと、高校時代にこの学校で出会った勝見先生と前任の東海林先生、おふたりの司書教諭が、すごく生き生きと仕事をされていたことも、大きかったのではないかと思います。おかげで、楽しく仕事をさせていただいています。
学校を訪れた際は、ぜひ図書館に足を運んでください。「探究女子」を育てるトキワ松学園の、多様な価値観を認め合う教育に触れていただけると思います。
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