学校特集
文化学園大学杉並中学校・高等学校2025
研究機関を学校に併設
偏差値にとらわれない新たな学びの場に
掲載日:2025年5月30日(金)
文化学園大学杉並中学・高等学校は、カナダと日本の2つの高校卒業資格を取得できる「ダブル・ディプロマ(DD)」コースの先駆けです。2015年にDDコース設置、2018年度から共学化、2020年度からSTEAMプロジェクト発足と、常に先を見据えた教育を実践してきました。
そして2025年度から始動するのが、BSICE(Bunka Suginami Innovation Centre for Education:文化杉並教育イノベーションセンター)です。学校現場を研究フィールドとして大学や企業、NPOや地域とも連携し、日本の教育や社会にイノベーションを起こそうとしています。さらにBSICEを背景に、2026年度から高校で「イノベーションリーダーズコース」を新設する予定です。教育イノベーションセンター長・染谷昌亮先生と、協働する首都圏中学模試センターの山下一社長が対談し、日本の教育を変える壮大な構想について語り合いました。
心がゆれる感動体験が
前向きな学びにつながる

文化学園大学杉並中学・高等学校(以下、文杉)は、先進的な教育で定評のある中高一貫校です。2015年度に創設したダブルディプロマ(DD)コースは、カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州と提携し、BC州の公立高校教員が来日してBC州のカリキュラムを教えます。日本とカナダの2校のカリキュラムを学び、カナダのカリキュラムは数学や理科も英語で学ぶことになります。
初年度は13人でスタートしましたが、年々人気が高まり、現在は2クラス編成になっています。DDコースの卒業生は1/3ほどが海外大学に進学しており、中学入試でもDDコース進学を目指す受験生や帰国子女が増えています。
2018年からは共学校となり、探究活動にも力を入れてきました。男子が入ることで多様性のある学習環境になり、さまざな取り組みが相乗効果となって学校の勢いも増しています。2020年度からは放課後に教科横断型の活動を行う有志参加型のSTEAMプロジェクトも立ち上げました。
文杉のこれまでの取り組み、そして今年度新たに立ち上げる研究機関や来年度開設予定の高校新コースについて、染谷先生と山下社長に対談していただきました。

山下一社長 御校の建学の精神は「感動の教育」ですね。通常の授業からSTEAMまで、すべての活動で「心を揺さぶる」経験を大切にしてこれが将来の進路選択や人生の視野を広げる原動力になると感じます。
染谷昌亮先生 何かを成し遂げた瞬間や新たな価値に触れたときに生まれる"心のふるえ"、すなわち感動体験が、前向きな思考を生み出し未来を切り開く原動力になるという理念が、教員にも根づいています。その理念の下で、新たな学びの方向性として2015年度からプロジェクト型の学びや対話的な学びを強くし、DDコースを立ち上げ、2020年度からSTEAMプロジェクトを実施しています。
山下社長 いずれも時代の先端をゆくもので、かつ特徴的です。STEAMプロジェクトは、多くの学校が「探究」を掲げる中、文杉では生徒が自ら問いを立て社会課題に向き合う本物の探究を実現しています。その取り組みについて教えてください。

染谷先生 わが校のSTEAMプロジェクトは教員が動機付けやプロセスの設定をせず、生徒自身が心の動きの中からテーマを創出し、自分でプロセスを定義して活動していくことにこだわっています。有志参加で、教員はルールメイクを一切せず、生徒が自由にテーマを決めて行動します。ロボティクスなどのものづくり、企業や大学、NPOと連携した社会課題への取り組みなどを積極的に行っています。
ビジネスアイデアコンテストやサステナビリティ関係の商品開発などで結果を出していますが、生徒の心の中に常に動機があり、生徒同士で動機づけし合うコミュニティを作っているところがわが校のSTEAM教育の特徴です。
山下社長 保護者が最も気にする「この学校で子どもの将来は広がるのか」という点で、高1対象の100人の社会人との対話イベントは素晴らしい取り組みですね。このような高密度な対話はいつから行っているのですか。
染谷先生 2023年にスタートし、今年3期目になります。「感動の教育」の理念に基づき、生徒の新鮮な驚きや感性を引き出すことにこだわった授業で、招待する社会人の仕事をあえて調べず、まっさらな状態で大人たちと対話します。「こんな大人になりたい」「こんな風に社会に関わりたい」など、"感じとる"ことにこだわって授業をデザインしました。調べ学習から入ると、活字だけの知識を頭に入れて整った質問をして「やり切った」と感じてしまう可能性があります。せっかくいい機会を作っても心の真ん中に響かないのはもったいないので、保護者や参画いただく企業の皆さんに趣旨を説明してご理解いただきながら実施しています。
山下社長 文杉の「コンピテンシーベーストラーニング」は、単なる知識暗記ではなく「どんな人間に育てたいか」を起点に授業が設計されているため、生徒さんは大学入試はもちろん、その先の人生で求められる本質的な力を育めます。従来の学習指導要領に沿って教えるコンテンツベースから切り替えたのは何がきっかけですか?
染谷先生 「求められるものが変わってきた」という感覚が強くなったからです。私が教師になった2016年ごろ、生徒たちは「大人の言うことを聞けば幸せになれる」と信じ込んでいる印象がありました。そして求められていたのは、効率的に偏差値を伸ばす授業です。ところが今は中1の生徒でさえ「先生はそう思うかもしれないけど、私はこう思う」「世界を見ると、そのやり方や考え方は違うと感じる」と発言するし、生徒が授業に求めるものが変わってきていると感じます。時代の変化に伴って、授業を変えていくのが自然な流れだったのです。
山下社長 DDコースやSTEAMプロジェクトを立ち上げて新たな方向性を明示したことで、新しい授業観や教育を求める子どもや家庭から選ばれる学校になってきた。いいスパイラルですね。
染谷先生 ただし、従来の枠組みを否定してるわけではありません。これまでの教育観や偏差値を重視する家庭や生徒はそれに沿った学校を選べばいいし、感性やスキルを求める家庭や生徒は新しいスタイルの教育が受けられる時代になればいいと考えています。
教育イノベーションセンターを立ち上げ
日本の教育を盛り上げていく

山下社長 2025年度からは、新たに「BSICE(Bunka Suginami Innovation Centre for Education:文化杉並教育イノベーションセンター)」という学校併設型の教育研究機関を立ち上げました。経緯や概要を教えて下さい。
染谷先生 STEAMプロジェクトに5年間取り組み、学校をオープンにすることで生まれるイノベーションを経験してきました。「自分の学校や生徒を良くする」だけでなく、生徒や先生を巻き込みながら教育研究を実践し、そこで生まれた知見を社会に発信したいと考えてBSICEを立ち上げました。学校併設の研究機関として日本の学校教育全体を盛り上げ、教育にイノベーションを起こして社会を明るくしたいのです。「教育イノベーションエコシステム」の仕組みを実装することで社会をよくする、という新しいアプローチです。
山下社長 学校に研究機関が別法人として併設している事例も珍しいですし、様々な団体と相互につながる教育エコシステムは海外では事例がありますが日本では初めてではないでしょうか。具体的な取り組み内容や目標をお聞かせください。

染谷先生 新しい授業論を提案する「プログラム開発」、教員を養成し教員の働き甲斐を再構築する「教員養成・支援」、学術的なアセスメントを通じて社会的な価値提案を行う「教育効果測定」の3部門で、7月から本格始動する予定です。
すでに文杉では博物館と連携したり、社会課題に取り組む学生団体の大学生と協働してワークショップを実施するなど、多彩な取り組みの先行実績があります。また、ブリティッシュコロンビア州の教員と授業デザインの研究会を開いて授業論のアップデートを図るなど、教員のレベル向上に取り組んできた実績もあります。カナダのコンピテンシーベースの授業論を日本の授業に落とし込んで学びの場を作ってきたし、探究に限らず全教科で生徒主体の授業を実施してきた素地もあり、こうした経験を活かして取り組みを進めていきます。
山下社長 これからの教育は横と縦が全てつながっていくので、その先駆けとなるシステムですね。最近は高大連携が増えていますが、今後は産学連携、地域との繋がりも大事にしていく必要があるでしょう。それによって、今まで学校になかったものを吸収できるし、子どもたちの学びの機会も増やせます。
染谷先生 それを教育研究の立場で実施すれば、価値のスコアリングや可視化ができるので、他の学校にも紹介しやすくなります。アカデミックな世界の論理だけでなく、泥臭い現場で育まれた知見だからこそ、実際に教育に携わる方にとっても説得力があるはずです。
新しく学校を立ち上げれば独自の教育を推し進めやすいけれど、既存校がこれまでの枠組みの中で新たな活動を始めるのは難しいものです。ですからBSICEがデータを元に既存校でもとり入れられる仕組みを開発すれば、学校現場で小さなイノベーションが沸き起こり、教育や社会を変えていく原動力になるはずです。
従来の教育を否定するわけではなく、今まで積み上げてきた文化や伝統はそのままで、新しい学校作りについての仕組みを開発していきたいのです。
偏差値に変わる評価軸を提案し
学びの動機づけや学校選びに新風を吹き込む
山下社長 すでに研究者や他校の先生方など、理念に共感して参加を決めている方も多いと聞いています。

染谷先生 立ち上げ準備時から教育学者の上松恵理子さんがメンバーに加わってくださり、全国の教育大学の先生方ともコラボレーションしながらシステム開発や効果測定を進めています。山下社長にも相談に乗っていただきましたが、首都圏中学模試センターを始め企業やNPOと直接提携していくほか、理念に共感してくれた学校がメンバースクールとして参加表明してくれています。
また、学校単位ではなく個別にコラボレーションを希望する全国の先生方からの問い合わせも多く、メンバーティーチャーとしてパートナーシップを希望する方も増えています。
首都圏中学模試センター様との協業では、偏差値に変わる新しい物差しの創出に大きな期待を寄せています!
山下社長 学校の勉強や習い事に打ち込んでいるなど大きな可能性を秘めている子どもがたくさんいるのに、偏差値でしか評価されないのは残念だと以前から心を痛めていました。偏差値で測れない能力や可能性を可視化できるシステムができるように、研究を進めていきたいですね。
染谷先生 それが実現すると、学びの動機付けが変わります。多くの高校生は偏差値を上げるという外発的なモチベーションで学んでいますが、偏差値以外の物差しができれば本質的な学びが生まれるはず。自分の心の根っこの部分から動機付けを見つけられたり、教科書を暗記していなくても知識と知識を紐付けて新しい知恵を創出する力がある子が評価される時代が来るべきです。新しい学びのモチベーションという概念を社会的に提案できれば、授業デザインも変わっていくと思うのです。
山下社長 偏差値だけにこだわらない社会になれば、小学校の学びが変わる可能性があるし、本当にその学校に合った生徒を選ぶ入試も増えてくるでしょう。中学入試のあり方も含めて、BSICEで共同研究を進めていきたいと考えています。
来年度から高校に
イノベーションリーダーズコース新設予定
山下社長 BSICEではで日本の教育に変革を起こすことを目指していますが、その流れで来年度から文杉では高校の新コースを立ち上げるご予定ですね。

染谷先生 認可申請中の状態ですが、社会の変革をリードできるような人を育てる「イノベーションリーダーズコース」を設置予定です。新しいアイデアを創出するイノベーターだけでなく、アイデアを実現できる人、デザインや具体化をリードできる人を育てていきます。
伸ばしたいのは「生み出す力」「巻き込む力」「形にする力」の3つです。人を巻き込んで資金を集めるためのコミュニケーションスキルやプレゼンテーション力なども磨くし、解決策を発表するだけでなく実装する技術やマインドも育成します。
山下社長 DDコースも画期的でしたが、新コースも魅力的ですね。カリキュラムの概要を教えて下さい。

染谷先生 まだ認可は下りていませんが、学校設定科目として「デザイン思考」「サステナビリティ」「AIと情報リテラシー」「アントレプレナーシップ」の授業を実装していく予定です。これらの授業を教員だけで行うのは難しいのでBSICEで生まれた人脈やコネクションを活かして、社外講師にも講義してもらいます。 また、動機付けからテーマ設定などすべて生徒自身が行う「iプロジェクト」という科目も設定予定です。
高1で学習指導要領で定められた単位をほとんど取得できれば、高2、高3は校外学習やフィールドワークを増やせるし、金曜午後から土曜にかけて地方に赴き、地元企業でインターンシップを実施して授業単位に組み入れることもできます。
すでにいくつかの地方自治体や観光協会から「一緒にプログラム開発したい」というお声がけをいただいており、期待が膨らんでいます。
山下社長 それは楽しみですね。今の中3生の中にもDDコースではなく新コースを希望する生徒もいると思いますが、募集人数は何人くらいですか?
染谷先生 新コースは30人募集予定で、内進生と高入生が15人ずつと考えています。現在の中3はすでに10人以上が新コースを希望しており、手ごたえを感じています。BSICEも新コースも試行錯誤しながら発展していくものなので、興味がある方はこちらから最新情報をご覧ください! → https://bsice.jp/