学校特集
国学院大学久我山中学高等学校2025
掲載日:2025年12月13日(土)
国学院大学久我山中学高等学校の図書館は、単なる「本を読む場所」ではなく、生徒たちの創造性や好奇心を育む、クリエイティビティあふれる学びの空間です。今回は、司書教諭を務める高橋知尚先生と、森 美里先生にインタビュー。図書館での読書指導や探究学習の支援、図書委員会の活動など、生徒の学びを支えるさまざまな工夫について、お話を伺いました。
開放感あふれる空間で、自然と学びが広がる図書館
学習センターの3階にある同校の図書館に足を踏み入れると、まずその広々とした空間に目を奪われます。ガラス張りの設計に加え、書架が低く配置されているため、どこからでも全体を見渡すことができるのです。開放感のある空間には、「思わず足を踏み入れたくなる」魅力が詰まっています。
館内を進むと、目的やテーマごとにさまざまなコーナーが設けられています。たとえば、卒業生の著作を紹介するコーナーや、授業の課題に関連する本を並べたコーナーなど。コンセプトに沿って本が並ぶことで、自然と手を伸ばしたくなる工夫がされています。
本校では授業を男女別学で実施していますが、図書館は男女共有の施設として活用されています。蔵書数はおよそ8万冊にのぼり、文学だけでなく、歴史・地理、社会科学、自然科学、芸術・体育など多岐にわたる分野の本がそろいます。昼休みや放課後には、多くの生徒が読書や自習に訪れます。
一方で、この図書館は、いわゆる「施設としての学校図書館」にとどまりません。国学院久我山が大切にしているのは、「読む習慣」を育むこと、そして「探究のきっかけ」を生み出すことです。次に、その2つの特徴を詳しくご紹介します。
本と向き合う時間を大切に ― 「読む習慣」を育てる図書館の工夫
(※公式Instagramより )
国学院久我山では、かねてより「読書指導」に力を入れてきました。20年ほど前から中学1年生の国語の授業内で、週に1時間を図書館で過ごす「読書の時間」を設けています。加えて、「朝読書」も他校に先駆けて導入してきました。
その背景には、当時の国語科教員たちの「本離れ」への危機感がありました。インターネットが普及し始めた時期であったこと。また、ライトノベルなど特定のジャンルに偏る傾向も見られたため、より幅広い分野の本に触れてほしいという願いがあったのです。そこで、まずは「読む時間」そのものを確保することを重視しました。
具体的な取り組みのひとつが「読書ノート」です。読んだ本のあらすじや感想を書き留めるもので、生徒同士がノートを回し読みし、コメントを入れ合う仕組みもあります。友人の感想をきっかけに「次は自分も読んでみよう」という気持ちが生まれ、読書の輪が広がっていきます。
また、教科の先生方と協力して「文庫の100冊」というブックリストも作成しています。中学生向け・高校生向けに分かれており、日本文学だけでなく、外国文学や新書などのジャンルを網羅。古典的な名作にもあえて触れられるよう工夫しています。長期休暇中には、このリストから本を選び、読書ノートを記す課題も出しているそうです。
「電車の中で国学院久我山の生徒がよく本を読んでいると評判になったこともありました。朝読書や読書好きの生徒が増えたと感じています」と高橋知尚先生は語ります。
中学2年生になると「読書の時間」の授業がなくなります。すると生徒からは、「またやりたい」「あの時間が好きだった」という声があがることもあるそうです。スマートフォンやゲームなど、さまざまな刺激があふれる今の時代だからこそ、意識的に"本と向き合う時間"を作ることに大きな意味があるのでしょう。
最近では、読書傾向が小説に偏りがちな生徒に向けて、ノンフィクション作品に触れる機会も増やしています。最初は「難しそう」と感じていた生徒も、実際に読んでみると「意外と面白かった」と感想を話し、興味を持ってその本を借りていく姿が見られるそうです。本との出会いを通して、生徒たちは新たな世界を発見し、自分の興味や関心を少しずつ広げていきます。
「文化祭などで学校見学に来た小学生のお子さんの中には、本が好きで図書館の棚から動かない子もいるんですよ。これだけの蔵書がそろっているのは、国学院久我山の大きな強みですね」と森 美里先生。続けて、「本にあまりなじみのない生徒たちにも、ぜひいろいろなジャンルに触れてほしいと思っています。読書の時間は、さまざまな本と出会うきっかけにしてもらいたいですね」と語ります。
生徒の"知りたい"を育てる図書館 ―「探究のきっかけ」をつくる場
探究学習との関わりも、同校の図書館ならではの魅力です。女子部には Cultural Communication Class(CCクラス) というコースがあり、日本文化と国際理解を融合させる教育を行っています。CCクラスで実施される「Global Studies(GS)」の授業では、図書館が毎回のように活用されています。学びの場としての空間提供はもちろん、司書教諭の先生方が関連資料を準備したり、事前にインターネットのリンク集を作成して生徒が調べやすいように工夫したりしています。
森先生は高校生の「総合的な探究の時間」で、テーマ設定のサポートも行っています。疑問の立て方や、レポートに適したテーマへの落とし込み方など、思考のプロセスを丁寧に導きます。学年主任の先生方とも相談しながら、図書館としてどのように学びに寄り添えるかを常に考えているそうです。
「AI検索に慣れた今の生徒たちは、キーワード検索に戸惑うこともあります。だからこそ、"答えがすぐに出ない"ことの面白さを伝えたいのです。謎を解くように調べ上げていく過程で、自分なりに考える力を育てていけるようにしています」と森先生。
2学期の終わりには、ビブリオバトル(本の紹介プレゼン大会)の開催も予定しています。
「たくさんの本がある中で"どれを読もうか"と迷う生徒も多いので、"友達が紹介してくれた本"という太鼓判をもとに、次の本へ手を伸ばすきっかけになればと思っています」(森先生)
そしてこう続けます。
「こうした多彩な取り組みができるのは、何よりも"図書の時間"がしっかりと確保されているからです。司書教諭として本当にありがたい環境ですね。他校の先生方からも驚かれることがあるんですよ」
他校の工夫を取り入れ、自分たちのアイデアに―図書委員会の活動
国学院久我山の図書館では、図書委員会の活動も大きな特徴のひとつです。今年度のイベントとして「国会図書館の見学」があり、図書委員の生徒たちは過去の新聞や漫画雑誌の創刊号を見せてもらうなど、普段とは異なる刺激的な体験をしています。普段入れない書庫に入れることも、大きな楽しみのひとつだそうです。さらに、國學院大學図書館や国際子ども図書館の訪問も行われてきました。
かつては、一度に数校が集まる「サークル読書会」も行われていました。森先生自身も高校時代にこの活動で国学院久我山を訪れた経験があるそうです。「知らない子たちが集まって本の感想を言うのは最初は緊張しますが、だんだん打ち解けて『来年もやろう』となるんです」と振り返ります。
他校との交流の意義について森先生は、「本校は委員会活動の時間があまり確保されていないため、どうしてもこちらが決めた仕事を行ってもらう場面が多くなります。一方、時間が十分にある学校では、生徒自身がイベントを企画したり広報誌を発行したりしています。そうした取り組みを知ることで、生徒が主体的に動くきっかけを作りたい。さらに図書館運営に対しても意見やアイデアを出してもらいたい」と話します。
生徒が発案した企画として、図書館内に「学習漫画」のコーナーも設けられました。学習につながる漫画をそろえるために、先生方を説得して導入までこぎつけるプロセスも、生徒にとって大きな学びの機会となったといいます。
また、図書委員主体の活動として「ジョブボン」にも取り組みました。これは自分たちで寄付用の「ポスト」を作り、読み終わった本を集め、障がい者就労支援施設で再生してインターネットで販売するものです。今年は文化祭で古本市を行い、売れ残った本をジョブボンに寄付する予定だそうです。
文化祭では、昨年同様、小学生にしおりやブックカバー作りを体験してもらいました。昨年の反省を踏まえ、今年は委員会のメンバーが動画で作り方を案内する仕組みも用意しました。継続的に関わるメンバーの存在が、よりよいものを作ろうという意欲を高めているそうです。
未来への扉をひらく図書館 ― 本と出会い、自分の世界を広げる場所
すでに充実した環境を備える国学院久我山の図書館ですが、生徒の学びをさらに広げる新しい取り組みにも積極的です。「授業で使いたいものにはできるだけ対応したいと考えています。いろいろなジャンルの本をそろえることも心がけています」と高橋先生は話します。
生徒からのリクエストも随時受け付けており、「この続編が読みたい」といった声や、講演会に訪れた方の関連著作にも対応しています。生徒たちの関心が高まるタイミングで本を届けられるよう工夫しているそうです。
森先生も、こんなエピソードを語ります。
「先日、廊下を歩いていたら、倫理選択の授業で『○○の本が面白かった』と話す声が偶然耳に入りました。すぐに図書館に行き、その本を教室の前に置くと、選択授業を受けていない生徒たちも興味を持って手に取っていました。話題の瞬間に本を届けることで、どんどん広がる。まさに、本はさまざまな出会いの可能性を秘めています」
高橋先生は、「ここに来ればいろいろなことがわかる、世界が広がる図書館を目指してきました」と話します。同校の図書館利用案内の表紙にも「未来への扉」という言葉が記されており、本が生徒たちの可能性や想像力を広げる大きなツールであることを象徴しています。
>
「図書館は、自分一人では気づけなかったことに出会う場所でありたいと思っています。国会図書館の見学などもそうですが、この場所で完結せず、ここからもう一歩踏み出せる場にしていきたい。未知の世界に飛び込むきっかけを作っていきたいですね」(森先生)
知的好奇心を刺激し、生徒たちの新しい可能性を切り拓く場としての国学院大学久我山の図書館。その魅力を、ぜひ感じ取りに来てください。
