学校特集
足立学園中学校・高等学校2025
掲載日:2025年5月11日(日)
医師である堀内亮一氏らにより1929年に創立した足立学園。建学の精神「質実剛健 有為敢闘」のもと、「自ら学び 心ゆたかに たくましく」を教育目標に掲げ、男子生徒の主体的な成長を支えています。その教育の柱は「志(ゆめ)」を見つけることで自ら学び続ける「志共育(こころざしきょういく)」にあります。
2025年度から新校長に就任した瀬尾匡範先生に、足立学園の教育理念や生徒の志を実現するための教育プログラム、ご自身の教育観について伺いました。
「将来何になりたいか」を見つける志共育

2025年度から足立学園の新校長に就任した瀬尾匡範先生。これまで高校の副校長や生徒指導部長、学年主任などを歴任してきました。
「学校は知識を学ぶだけでなく、人間として成長する場です。人間力の高い人財(人材)を育てるために、勉強やクラブ活動を通した学びがあるのです。私は数学科の教員として文武両道を心がけ、生徒たちにも両方をバランスよく実践できる人となるよう指導を続けてきました」(瀬尾校長先生)
足立学園では中高の6年間を社会へはばたくための大切な準備期間と位置づけ、「志共育(こころざしきょういく)」を教育の柱に、自身の目標を見出す学びを大切にしています。
「志共育とは、自分が将来何になりたいか、どう生きたいかを本人が『志(ゆめ)』として描くことでやる気を引き出す学びです。『〇〇のために海外へ行く』と明確な目標を設定することで英語力が自然と身に付くように、『将来は〇〇になりたいから、勉強する』と目標を定めることで努力につながっていきます」
夢と志は、似ているようで異なる概念です。夢は自己の幸せや欲望を基に形成される一方、志は広い視野を持ち、社会にどう貢献できるかを考えることから始まります。
「例えば『将来、ウルトラマンになりたい』という夢を子どもが描いたとします。しかし現実世界で体を巨大化させたりするのは難しいでしょう。そこで、『ウルトラマンのように、世界中の人を助けたい』と夢を発展させていくんです。すると志に一歩近づきます。そこからは世界中の人を助けるための手段を考えればいい。行き着く先が消防士なのか、地震が起きても崩れない建物を作る建築士なのか。それぞれが答えを見つけていきます」
自己の幸せを追い求めた夢は、諦めるのも次の夢を探すのも簡単です。しかし「誰かを幸せにする」という気持ちが加わることで、その思いは志へと昇華され、より強い意志のもと将来の希望へとつながっていくのです。
志をきっかけに、アメリカ・イリノイ大学へ進学した生徒も
志を見つけたことで自分の人生を切り拓いた生徒が、足立学園には数多く在籍しています。その一人が、八幡昴樹さんです。
八幡さんは中学生の頃、YouTubeでメルセデス・ベンツの自動運転に魅了され、独学でプログラミングを学び始めました。高校では探究コースに進学し、自動運転技術に関する先行研究や文献などを読んで理解を深め、自らラジコンカーを製作。その探究をまとめた英語発表が、英語のプレゼンコンテスト「Change Maker Awards」で個人部門金賞を受賞しました。在学中に「世の中から交通事故をなくしたい」という志を見つけた八幡さんは、卒業後、アメリカ・イリノイ大学のコンピュータサイエンス学科へ進学。現在も自動運転の研究を続けているといいます。

ユニセフの活動に参加して、開発途上国と日本の乳幼児の死亡率の違いに興味を持った生徒もいます。その生徒は足立学園の海外研修「"志"グローバルプログラム」の1つ「アフリカ・スタディーツアー」へ参加。タンザニアでサファリツアーやマサイ族の文化を学んだり、現地の農園を視察したりしたそう。
ある日、ツアーのメンバーがプールの水を飲み体調を崩したことがありました。生徒たちはすべての予定をキャンセルして、アメリカ人医師が創立した現地の病院へ。ツアーのメンバーが点滴治療を受けている間、病院内を見学し、医師不足の現状や課題について直接聞く機会を得たそうです。その際、その生徒は「赤ちゃんを守るための医師として、ここで働きたい」という志を抱き、「いつかここで働かせてほしい」と現地の医院長に約束を取り付けたといいます。
「志を実現させる過程では、さまざまな壁にぶつかることでしょう。けれどくじけず、自ら工夫して調べ、探究する。その繰り返しで自身の得意・不得意を見出し、進むべき道を模索していくのです」(瀬尾校長先生)
成長段階に応じた体験学習で、「志」を見つける
足立学園では、生徒自らが志を見出し、未来を切り拓く力を養う全人教育を「守・破・離」の3ステップで行っています。「守」では基礎・基本を固め、「破」では他の教えを取り入れて発展。「離」では教えから離れ、独自の方法を確立させます。これらを授業や探究活動、学校行事、部活動など学校生活を通じて実践し、生徒の自尊心、自信、自負心、自己肯定感を育てていきます。
その教育の大きな特長は、成長段階に応じた体験学習の充実です。中学では「守・破・離」の「守」と「破」に当たる期間として、中1は農業畜産体験、中2は保育園職場体験、中3は職業体験などを行います。
中1の農業畜産体験では、牛のブラッシングや乳しぼり、畑での苗の植え付け作業など、日常では経験できない貴重な活動を通じて命と向き合い、環境への関心を育みます。
中2では、福祉教育として高齢者疑似体験や車いす体験を行うほか、保育園職場体験保育園職場体験では手づくりのおもちゃを制作。園児がおもちゃで遊ぶ様子を観察することで、「誰かのために役立つ」経験を積み重ねます。

中3は、足立区内の事業所約50カ所で職業体験に参加。「働くとは何か」「事業所が社会で果たす役割」を学び、自分の職業観を見つめ直す時間となっています。
「小学校を卒業した頃は、『志』と言われてもなかなか理解できないでしょう。その上、将来の夢も簡単に揺らぐ多感な時期です。学校生活で『未来に向けて進んでいくんだ』とぼんやりと意識することで、本人の意識が変わっていきます」(瀬尾校長先生)
高校では松下政経塾と提携した「こころざし探究プログラム」に半日間参加。事前学習で松下幸之助の功績や理念について学ぶほか、プログラム当日は探究活動を行います。昨年度は「『2050年の社会のビジョン』を描くとともに、日本や世界が直面する社会課題に対してどう実践的に行動するか」をテーマに、探究活動を行いました。
海外研修も充実しており、初めての海外体験を後押しする入門体験型から、英語圏での学習をメインにしたもの、非英語圏である開発途上国の実情を学ぶ研修まで計7つのプログラムが準備されています。国内だけでなく海外でもさまざまな経験を積み重ねる中で、生徒たちは志を見つけていきます。
「高校入学後も生徒たちは志を見直すよう教員から何度も促されます。その問いかけは、大学の学部選択で活きてくることでしょう。時には、生徒が見つけた志と、保護者が思う子どもの幸せな未来が合致せず、ぶつかり合うこともあります。教員も一緒になって何度も相談を重ねた上で、最終的には生徒自らの意志で自分の将来を決めていきます。志共育の考え方に触れた保護者が、『私の教育が間違っていた』と涙することもあるほど、皆さん真剣に想いを打ち明けあうのです」
中高6年間は生徒の人生を決める大切な期間。たくさんの経験が生徒たちの志を支え、未来へと導いていきます。
志共育がもたらした「主体的に活動できる生徒たち」

志共育によって、生徒たちはさまざまな面で成長を遂げています。ひとつは、「主体的に活動する生徒が増えたこと」です。
同校では修学旅行や学園祭などの企画を生徒自らが考えます。特に高校修学旅行は、生徒自身が作り上げる特別な行事。実行委員となった生徒らが約2年間かけて同級生の希望をヒアリングし、代表生徒が教員や旅行業者と共に実際に下見をして旅程を組むプログラムで行います。
「教員が修学旅行の旅程を決めていた頃は、わざと他の生徒と異なる行動をする生徒もいました。しかし、実行委員制度になってからは全体が協力的になりましたね。仲間がどれだけ準備を重ねてきたか、その熱意を身近に感じるからこそ、『応援しよう』というスタンスが生まれているのでしょう。良い相乗効果が育まれています」(瀬尾校長先生)
2025年度の修学旅行では北海道、沖縄、ベトナムの3カ所から選ぶ予定です。実行委員はトラブルやハプニングに見舞われることもありますが、自分たちで解決しようと奮闘するそう。「失敗は社会に出た時に、役立つものです。広い心で生徒たちを見守りたい」と瀬尾先生は語ります。
「今年からは志共育において『挑戦する』ことをより重視していきます。挑戦を通じて、失敗を恐れず、次に活かす貴重な体験を積んでほしい。それが移り変わりの激しい現代社会で、成長を続けられる力となるはずです」
互いの得意・不得意を尊重する校風の魅力

生徒一人ひとりの志を本気で応援する足立学園。その熱意は生徒たちとの絆として、深く結ばれています。
その証拠に、同校には「学校に恩返しがしたい」と学園卒業後も訪れるOBが非常に多くいるそう。取材した日は4月上旬でしたが、「昨日も卒業生が遊びに来ていました。毎日誰かしら来るんですよ」と瀬尾校長先生が顔をほころばせていました。
「本校には学園出身の職員が20名ほど在籍していますし、OBの大学生や大学院生が中学生の数学や英語のサポート授業を行う『学力ジャンプアップ講座』も実施しています(週2回)。数学や英語の個別指導を通じて、先輩が後輩を支える伝統がしっかりと根付いています」
OBの来訪が多いため、在校生は進路や将来の相談がしやすい環境が整っているそう。
「学校説明会でアンバサダーを務めた卒業生は、卒業後も校内見学を手伝ってくれています。これは先輩・後輩だけでなく、生徒と教員の間にもしっかりとした信頼関係が構築できているからこその光景だと思います。みんなが帰ってきたいと思える母校になっていることが本当にうれしいですね」
そんな卒業生たちがよく口にするのは、「足立学園、最高!」の言葉です。同校には、他人の目を気にせずに自分のやりたいことに熱中し、生徒同士が互いの得意・不得意を尊重する土壌が育っているといいます。
「本校の魅力を一言で伝えるとしたら、『それぞれが主人公になれる瞬間がある』でしょう。イラストが得意な子は体育祭のクラスTシャツのデザインで活躍しますし、運動が得意なら体育祭で活躍できます」
互いの得意分野を生徒同士が認め合い、リスペクトしているからこそ、その人が一番輝く瞬間をみんなが理解しているそう。中高生のうちに自分の得意なことを他者から認めてもらう体験は、子どもの心の安定と成長につながることでしょう。
自分の得意なことを見つけて、「自信」につなげて
最後に、瀬尾校長先生はこれまでの教師人生を振り返り、「生徒を正しい道に導いていくことが、我々教師の役目」と語ります。

「その場で成果が見えなくても、20~30年後に『そういえば、瀬尾に指導されたな』と振り返られる。これが、教育の本質ではないでしょうか。社会に出た生徒たちを形作るのは、これまでの生活です。学校でさまざまな体験を積み重ね、失敗を繰り返すことで、『またこの失敗をやるところだった』と回避する能力を身に付けます」(瀬尾校長先生)
受験生に向けても「ぜひさまざまな夢を持って、足立学園へ足を運んでほしい」と語りかけます。
「保護者から『学力の伸び悩み』でご相談をいただくことがありますが、本校では中学入学から高校卒業までの間に大きく成長する生徒がたくさんいます。ある生徒は物理の授業に興味を持ち、学年トップの成績を収めるようになりました。その結果、他の科目への意欲も高まり、学業全体が向上したのです。男子生徒は得意なことが見つかると自信がつき、他の力も大きく伸びる傾向があります。本校ではそのターニングポイントが、必ず見つかると思いますよ」
志を見つけることで、自ら努力する。その経験は大学生活、ひいては社会人となっても子どもたちの心と人生を支えて行く基盤となるでしょう。足立学園にはその基礎をしっかりと築く土壌と校風が養われています。