学校特集
富士見中学校高等学校2025
掲載日:2025年6月22日(日)
西武池袋線中村橋駅から徒歩3分という好アクセスの立地にある富士見中学校高等学校。実業家・教育家の山崎種二氏が1940年に創設した完全中高一貫の女子校です。目指す生徒像は「社会に貢献できる自立した女性」。各教科ではプロジェクト型学習を通し、生徒たちの創造的思考力や課題解決力を育んでいます。なかでも美術の授業では、新たに日本画の制作に取り組んだり、地域や企業と連携した学びを行ったりと積極的に実践しています。熱意を持って指導にあたる美術科の杉原 誠先生に詳しくお聞きしました。
「問う」「感じ考える」美術教育
今年度から日本画にも挑戦
充実したグローバル教育や探究的な学びと並んで、画期的な芸術教育を推進する富士見中学校高等学校。学校創設者・山崎種二氏は美術への造詣が大変深く、東京・広尾にある日本初の日本画専門美術館「山種美術館」を開設した人物でもあります。そうした背景から、同校では400点以上もの美術品を所蔵。廊下や階段の踊り場など校内のいたるところに絵画や彫刻が飾られているため、生徒たちは日常的に芸術作品を目にしながら学校生活を送っています。

中学・高校で美術を教える杉原 誠先生は、授業の方針について次のように話します。
「本校の美術教育では、創造的思考力の育成を目指し、大きくアートとデザインという2つの領域で学びを展開しています。アートの領域では様々な価値観と向き合い、デザインの領域では社会や地域と接点を持ちながら、実践型の授業を中心に行っています。中学では生徒一人ひとりが自分なりに感じたり、考えたりしながら表現・鑑賞をすること、高校では中学で培った表現力や鑑賞力をベースにしながら自身の意図を反映させた表現を目指す、というように段階的に学びを深めていきます」
同校の美術教育の場合、技能の向上や知識の習得のみにとどまらないところが大きな特徴です。授業内では、"教員から生徒に教える形式"は最小限で、常に"生徒に問う"、"生徒に感じ考えさせる"を強く意識しています。
そんな生徒主体の美術教育を行う同校では、今年度から中学3年生を対象に「日本画の実践」を新たにスタートさせました。この経緯について杉原先生はこのように説明します。

「大きくふたつの考えがあります。ひとつは、今後の美術教育を考えていく中で、本校の背景に立ち戻る――つまり、創設者・山崎種二が深く関わった日本画にも触れていく必要性があるという考えに至ったこと。もうひとつは、このグローバル社会において、日本の美術や文化への理解を深めておくことが重要だという考えからです。生徒たちにとっては、普段なかなか触れることがない日本画の雰囲気や特徴を自分なりに捉える好機会となりますし、中2のときに学んだ西洋美術と比較するといった視点で体験することで新たな気付きも得られるでしょう」
日本画に取り組むにあたり、生徒たちは事前学習として日本画の歴史的背景や題材観について学びます。取材に伺ったこの日は、日本画への理解と実感を深めるため、初心者用の「日本画体験キット」を使い、ポストカードサイズの日本画を制作する実践型の授業が行われていました。時間割の中の連続3コマを使って、下絵の転写、輪郭線を引く骨描(こつが)き、岩絵具での着彩(全体の一部)までを実施。生徒たちは、先生のレクチャーを受けながら初めて手にする絵具や道具を使って、真剣に挑戦していました。
〈授業を体験した生徒の感想〉
M・Oさん
普段は日本画に馴染みがなく、最初は「難しそう」といイメージを持っていました。でもやり始めたら楽しかったです。なかでも一層・二層と、全体にベースとなる色を薄く塗る工程が特に楽しかったです。事前学習では、明治時代に西洋画が入ってきたことで、日本画の価値が改めて見出されたという歴史的背景を知りました。新しいものが入ってきたことで、今まであったものが見直されるという点が興味深かったです。
A・Yさん
私はもともと絵を描くことが好きなので、日本画の実践授業をとても楽しみにしていました。日本画は校内に飾られているのを見たり、美術館で鑑賞したことがあったりするくらいで、最初はよく理解できていませんでした。でも授業を通じて、日本画の特徴、表現の仕方が少しずつわかってきた気がします。顔料を指で混ぜる作業は水彩画などにはないですし、加減が難しくもありましたが、初めての体験でとてもおもしろかったです。
杉原先生は、生徒たちの様子について次のように話します。

「今回は彩色の前段階に行う、下絵の転写や骨描きという少し地味な制作が中心でした。線を引く時間が長かったのですが、生徒たちはみんな思った以上に制作に集中していて、その姿がとても印象的でしたね。というのも、普段の授業では『感じ考える』ことやプロジェクト型学習が中心のため、ひとつの制作過程に没頭するような時間が意外と少ないのです。そういった意味で、今回の授業は生徒が制作過程や日本画と静かにじっくりと向き合うことのできる、普段とはまた違った豊かな時間になったのでは、と感じています。技法的な部分では、慣れていない日本画の材料を扱うという点で試行錯誤していたようですね。結果的にはそれが水彩画との違いや日本画の特徴を掴むことにつながってくれたらと思います」
2学期以降に全体の着彩を行い、完成まで仕上げていきます。杉原先生は、この日本画の取り組みが、日本の芸術や文化全体への興味関心を持つきっかけになってくれればさらに望ましい、と話します。
企業やプロとの連携による
プロジェクト型学習を積極的に展開
同校では、探究学習を通じて得た探究方法や学びの姿勢を生かし、各教科でさまざまなプロジェクト型学習を実践しています。授業の中で完結するのではなく、企業や地域とつながりながら課題についての解決策を生徒たちが見つけ出していきます。美術で実施している数あるプロジェクトの中から、ここではふたつご紹介しましょう。

2023年度から始まった取り組みで、中3は学校近隣の和菓子店「練馬凮月堂」と連携し、和菓子のデザインに挑戦します。生徒たちは一人ひとり、デザインを手描きし、粘土でプロトタイプ制作を行います。職人さんからのフィードバックを元に、デザインのブラッシュアップや試作を重ねていきます。最終的には、選ばれた3名の作品が商品化され、卒業式で祝い菓子として配られます。
「プロである和菓子職人さんの視点やフィードバックは、生徒たちにとってとても良い刺激をいただいています。例えば、生徒たちは張り切って凝ったデザインを考案しがちなのですが、職人さんから見ると和菓子として商品化しにくかったり、量産しにくかったりするものも多いんですね。そうしたプロの視点をフィードバックとしていただけることで、生徒のデザインの考え方や捉え方に新しい視点が生まれ、視野が広がっていきます。生徒たちの達成感も大きく、保護者からも大好評なので、今後も職人さんたちのご協力をいただきながら続けていきたいですね」(杉原先生)

こちらも2023年度から始まったプロジェクトです。農業高校の生徒たちが栽培したお米のパッケージを富士見高校の高1の生徒たちがデザインし、日本橋三越本店や阪急うめだ本店などの百貨店で販売。選ばれたパッケージをデザインした生徒たちは販売会にも参加します。
「生徒たちはチームを組み、チームごとにデジタルペイントも使いながらデザインを制作します。越後ファームやプロのデザイナーの方々などから、デザインに対するフィードバックをいただき、最終的にはコンペ形式でデザインが採用されます。選考では、それぞれのデザイン案に対して温かいお言葉や批評をいただきましたが、それも生徒たちにとって強く響いているようです。なかにはとても高く評価されたチームがあり、そのチームの生徒たちは本当にうれしそうでしたね。販売会に参加した生徒たちは、お客様と会話したり、実際に目の前で購入くださったりという得難い体験になりました。和菓子デザインのプロジェクトと同様に、とても有意義な学びにつながっていると感じています」(杉原先生)
こうした学外との連携プロジェクトは、同校が重視する創造的思考力や課題解決力の育成に大きくつながる学びです。杉原先生は、今後もさらにアートやデザインの捉え方を深めていくような「問う」「感じ考える」が中心の授業、厚みのあるプロジェクト型学習の両方を展開していきたいと考えています。
「本物」に触れて過ごす6年間
富士見だから実現できる多彩な学び

学校創設のルーツを大切にしながら、多彩なプログラムで美術教育を実践する富士見中学校高等学校。10代の早いうちから「本物に触れる」体験を重視しているため、今年4月には、入学したばかりの中1の生徒たちを対象に「校内アートの対話型鑑賞」も行いました。この授業では、対話型鑑賞を通じて作品の「意味」を感じ考え、全体へ共有。互いの「気付き」や「解釈」を聞いて、自身の見方や感じ方を広げ、深めていくことがねらいです。鑑賞したのは、本館2階大階段上にある浮田克躬氏の油彩画「パリ郊外」。大キャンバスに描かれた迫力ある作品です。こうした授業も、美術作品やアートの実物が多く飾られている同校だからこそ実現できる、充実した学びのひとつといえるでしょう。
同校では、生徒たちの5年、10年先の未来を見据え、新しいプログラムも柔軟に取り入れながら深みのある学びを提供しています。日常的に本物に触れながら、じっくりと創造的思考力や課題解決力を養う6年間は、きっと将来の仕事、社会貢献、人生を切りひらいていく上で役立つことでしょう。学校説明会では、校内の芸術作品の数々を見ることもできます。ぜひ富士見中学校高等学校を訪れて豊かな時間を過ごしてみませんか。