学校特集
城西大学附属城西中学・高等学校2025
掲載日:2025年11月25日(火)
創立107年を超える伝統校。独自の体験型教育プログラム「JFGLP(Josai Future Global Leader Program)」によって、豊かな人間力や国際感覚を身につけ、グローバル社会で活躍する人材を育てる城西大学附属城西。建学の精神に「天分の伸長」「個性の尊重」「自発活動の尊重」を掲げ、生徒一人ひとりの個性を大切にする教育方針には、創立時の大正自由教育の精神が生き続けています。同校の卒業生でもある校長の神杉旨宣先生が目指しているのは、「生徒の自己肯定感を高め、持って生まれた才能と素質を引き出し、互いに尊重し合う」学校づくり。2018年にスタートして一巡した、中高一貫教育プログラム「JFGLP」のこれまでの成果と今後について、神杉校長にお話を伺いました。
体験重視・本物主義の自由主義教育の精神が息づく「JFGLP」
■100年前から「探究」に取り組んできた
同校は創立以来、生徒と先生が協働しながら学び合う、体験重視・本物主義の教育を貫いてきました。そこには、当時の野口援太郎第2代学園長の建学の理念が脈々と息づいていると校長は語ります。
神杉校長:「野口先生は、極めて自由を追求する教育者でした。今で言う実験校だったと思いますが、自宅に子どもたちを集めて実践した教育手法に、『探究』の概念がすべて集約されています。生徒たちが自らの興味関心に基づいて主体的に行動し、互いにディスカッションしながら学び合う。100年経って、今や全国の中学校で行われている探究活動と重なります。言い換えれば、本校は学園草創期から『探究』を実践していた学校なのです」
大正自由教育を実践した野口援太郎は、自宅に「池袋児童の村小学校」を開設。時間割や学年の枠を定めず、子どもたちは教室(部屋)で本を読んだり裏庭(原っぱ)で昆虫採集をしたり、思い思いに過ごしました。子どもが昆虫を捕まえて戻ると、野口は「では今日は、昆虫について授業をしましょう」と言い、物語を書いてきた子どもがいればそれを読みあげ、翌日にはみんなで書いてみるといった教育を実践していました。そうこうするうちに、いつの間にか部屋の片隅は図書コーナーになっていたそうです。このように、創立時から五感で触れる体験重視の教育を行っていました。
創立100周年を機に導入された「JFGLP(Josai Future Global Leader Program)」は、中高6年一貫の超実践型プログラムです。教科横断型学習と体験型行事を体系的に組み合わせ、授業で学ぶ知識と実体験を融合することで、知識を生きたものにしていくことが特徴。
中学3年間は、中3の「オーストラリア海外研修」(全員参加/2週間)に向けて「自立心を養う」準備期間と位置づけ、「JFGLP(豊かな人間力・語学力・国際感覚を身につけ、グローバル社会に貢献できる人材を育てる)」への基礎固めをしていきます。
そして、超実践型「JFGLP」の出発点といえるのが、中1の「サマースクール」(2泊3日)。生徒たちが協働体験をする最初の宿泊行事です。これも、野口先生が当時実践していた「夏の教室」が原点となっています。ちなみに、野口先生の「夏の教室」は2週間程度の宿泊行事でした。
■中1「サマースクール」は自立への第一歩
神杉校長:「冷えた空気の匂い、新鮮な新緑の匂い、澄んだ星空など、都会の子どもたちが普段見たこともないような自然を五感で感じ、みんなで感動を共有する。これほど素晴らしい瞬間はありません。雨が降り、テントの布に当たる雨の音で衣食住の『住』の有り難みを感じ、飯盒炊爨をすることで、家で当たり前のように出てくる食事への感謝、母親の日々の大変さに思い至る。普段の生活とはまったく違う野に放たれ、そこで遭遇する体験は自立への一歩を促します」
この夏の「サマースクール」では後片付けに手間取ったグループがあり、その後の予定が大幅にズレた出来事もあったそうです。でも、そんな「失敗」体験の一つひとつが、集団生活の規律やトラブル対処法を学ぶ良い機会となっています。
本物の自然と触れ合って五感を刺激し、体験によって内面から湧き上がる知的好奇心を引き出す。それが、同校の本物主義の教育です。そして、この「サマースクール」は徐々に深まり始めた生徒同士の距離が一気に縮まり、生徒と先生の関係も深まる行事です。
神杉校長:「宿泊行事は、生徒たちが普段の教室では見せないような表情に気づける機会です。『こんなに積極的な一面があった』『率先して洗い物する子だった』など、いつもと違う物差しで生徒たちの個性を見つけていく。それは、授業で接しているだけでは気づかない発見です。私個人としては、2泊どころか3週間でも4週間でもやりたいぐらい大切な宿泊行事です」
中1の学年企画として、「サマースクールの再現」に挑む秋の「しいのき祭(文化祭)」では、生徒たちが味わった感動や発見がそのまま形となって表れます。
氷穴を初めて見た年は、教室内で冷風機を回して冷気で満たしたり、酪農・畜産体験を行った年は、乳搾り体験を再現しようと、キッチンで使うピンクのビニール手袋をパンパンに膨らませて牛のおっぱいに見立てたりしたことも。
神杉校長:「その創意工夫に驚かされましたし、大人が思いつかない視点が素晴らしかったです。それだけ、生徒たちにとってサマースクールの体験が印象深かったのだろうと思います」
中学の「JFGLP」は、問題解決能力と協働力を養うことを目的にPBL型学習で行われますが、農業体験や100回以上の理科実験など、各教科・各学年に応じて多様なプログラムが用意されています。
中1 サマースクール/自然に触れる。集団生活で協働力・協調性を養う
中2 京都研修旅行(民泊体験)/日本の伝統文化・歴史を理解する
中3 比較文化研究/興味・関心のあるテーマを自分で選び、世界規模の課題に取り組む
オーストラリア海外研修/十全な事前学習を経て、ホームステイをしながら現地校に通う
■中3「オーストラリア海外研修」は異文化コミュニケーションを学ぶ第一歩
神杉校長:「『オーストラリア海外研修』では現地の方へのインタビューやフィールドワークなど、探究型の取り組みを行っています。アボリジニ文化に触れることも、生徒たちにとっては大きな異文化体験です。また、現地校での授業のやり方や活発な発信も生徒たちには新鮮な驚きであり、ホームステイ先での生活も異文化コミュニケーションを学ぶ第一歩となっています」
異文化理解の側面が強い、この中3の「オーストラリア海外研修」は、知らず知らずのうちに探究的な学びの基礎となっています。そして、知的好奇心を刺激された生徒たちに「英語を勉強し直さなければ」「自分に数学的な知識があったら、もっと掘り下げられるのに」といった知的欲求を自然に芽生えさせ、本来の学問へと軸足を移していくプロセスでもあるのです。
そして、「夢の実現に向かう」高校3年間がスタートします。
「JFGLP」の2大方針は、「超実践型探究学習」と「異文化交流」
同校の教育の大きな柱は、中高6年間を通じて展開される「超実践型探究学習」と「異文化交流」です。
高校の探究学習では、自然科学、環境、未来、ICTなどさまざまな分野のゼミが展開されていますが、その中から年々活性化している「αゼミ」と、高2の「探究型修学旅行」をご紹介しましょう。
■「3.11を教科書の出来事にしたくない」
予測不可能な未来社会で活躍できる人材を育成する、キャリア特別講座としてスタートしたのが「αゼミ」(高1〜高3希望者)です。
3年前から継続するものに、「東日本大震災を教科書の出来事にしたくない」を合言葉にした、福島県の被災地訪問プロジェクト「福島、その先の環境へ」があります。これは首都圏の中高一貫校連携プログラム「Goals」の一環で、活動に賛同した城西生が、他校の中高生と一緒に被災地を訪れ、災害を風化させない活動に取り組んでいるものです。
神杉校長:「被災地には、あの時のまま止まっている時計や津波の被害がそのまま残されている小学校もあります。震災当時の記憶があるはずもない都会の生徒たちが、『教科書ごとにしたくない』と言う。『自分たちは語り部にはなれないけれど、こういう事実があったことを伝えていく役割を担いたい』と、使命感を持って切々と訴えてくる。他校の生徒と一緒に行っている企画ですが、その無垢で純粋な思いには頼もしさを感じています」
■廃棄野菜を使ってマフィン作り。関西・大阪万博でも発表
もう一つは、食品ロスに取り組んだ事例です。生徒が着目したのは、過剰除去(厚く切りすぎた皮や根、見栄えの良くない部分をカットする)による野菜ゴミ、いわゆるクズ野菜でした。
それらのクズ野菜を集めてビーカーで栽培したところ、1週間後にはしっかり芽を出し、育っていました。そこで、同校の学食スタッフの方々の協力を得て、栽培し直した野菜を材料にした「ベジマフィン」を考案・開発し、校内で販売。食堂で販売した1個170円のベジマフィンは完売したそうです。
神杉校長:「彼らがすごいのは、検証・実験した事実(ベジマフィンの考案・販売)を学校の中で当たり前にしようと考えたこと。この取り組みを立教大学の『SDGs実践発表会』で発表し、さらには関西・大阪万博2025の招きでこの夏、ポスターセッション&プレゼンを行ってきました。『食品ロスの解消』を社会の当たり前にしようと頑張った活動が、一気に万博まで広がったのです」
彼らの活動から神杉校長が改めて感じるのは、「楽しんで夢中になっている人には敵わない」ということ。たった一つのマフィンでも、自分の行動が「もしかして価値があるのではないか」「誰かを救ったり、幸せにしたりできるのではないか」という気持ちが芽生えたら、その思いはどこまでも広がっていきます。
神杉校長:「欲も打算もなく、夢中で走っている純粋な気持ちに叶うものはありません。そうした生徒たちの純真無垢な心根をどのぐらい気持ちよく伸ばしてあげられるか、養分の高い土壌でその根をできる限り張らせてあげるには? その養分とは、おそらく我々の仕掛けや手腕だと思います」
「αゼミ」とはNPO法人や大学、企業など外部団体と連携して、さまざまな分野で直面する社会的課題を発見し、フィールドワークを駆使してアカデミックに探究するものです。これまでに、石川県能登半島の観光客数増加や岡山県吹屋地区の地域活性化を目指すプロジェクトに参加。城西生が企画・開発した入浴剤「吹屋ベンガラの湯」は、2025年4月よりパッケージが刷新されました。
■地球規模の課題を自分ごとにする高2の「探究型修学旅行」
台湾・ハワイ・国内の3コースに分かれる高2の修学旅行は、いずれも事前学習を行い、課題解決意識を持って現地でのフィールドワークに参加する探究プログラムとなっています。
例えば民泊もするハワイのプログラムでは、治安の良くない地域で半日をかけてゴミ拾いを行うものも。幼い時に刑事さんにお世話になって人生を救われたという、現地の60代の方が始めた清掃活動です。昨年は、古代から数百年続く伝統的な養魚方法にもチャレンジしました。
神杉校長:「なぜ、この活動をするのか。なぜ、これにこだわるのか。現地の方たちと一緒に作業を行う生徒たちが、何を感じて戻ってくるのか、毎年楽しみにしています」
修学旅行を始め、同校の探究プログラムはどれも既存の専門業者には任せず、先生方が手作りでリアレンジしています。生徒一人ひとりへの心配りや丁寧な対応は、こうした先生方の不断の積み重ねによって生まれているのです。
・ハワイコース/5泊7日の行程のうち、2泊はホームステイ。各自が設定した探究テーマに取り組む
・台湾コース/姉妹校の宣寧高級中学の生徒と、さまざまなテーマの社会課題について学びを深める
・国内コース/地域創生をテーマに、徳島県西阿波地方が抱える地域課題について実地調査を重ね、解決プランを提示
■すべてのクラスで、留学生と協働する「毎日が国際交流」
探究活動と並んで、もう一つの大きな教育の柱である異文化交流も、同校の大きな魅力です。
1982年に初めてアメリカから交換留学生を受け入れて以来、積極的に国際交流を図ってきました。他校に先駆けて積み重ねてきた異文化交流は、一朝一夕にはなし得ないもの。2024年度だけでも、海外のさまざまな国や地域からの短期・中期・長期留学生の受け入れ総数は52名を数えます。
高校のクラス編成では、CSクラスを除く全クラスに数名ずつの留学生が在籍していますが、英語が母国語ではない留学生も多く、まさに「毎日が国際交流」。彼らと一緒に、日々の探究活動や学校行事を通して、協働したり感動を共有するだけでなく、価値観の違う同世代と交流することで、新しい視点・視野の広がりが生まれています。
神杉校長:「外国人は積極的で、日本人は自己肯定感が低いというのは常々言われていることですが、稀に逆になる場合もあります。そうした時でも、日頃から留学生に親しんでいる本校の生徒は優しく、ホームシックになった留学生を上手にフォローしている場面もよく見かけます。また、体育祭の綱引きで体格の大きな男子留学生が日の丸の鉢巻を締めて先頭に立っていることも。すると、本校の男子生徒が彼らに微妙な対抗心を燃やして、縄の先頭を取り合ったりもする(笑)。そうした気持ちの揺れ動きも含めて、留学生が身近にいることはとても良いことだと思っています。泣いたり笑ったり、感動体験の共有は国境を超えていきます。言葉は通じなくても、心が通じ合っていることをお互いに理解している。そこでは、『国際交流』という言葉さえ必要ありません」
1982年にアメリカ・オレゴン州のSweet Home High School と交換留学をスタート。以来、世界各国の姉妹校・提携校と交流を続け、現在その数は、北アメリカ・アジア・オセアニアなど計7カ国15校に及びます。そして、毎年各国から約10名の留学生を受け入れて、1982年〜2024年度に同校が派遣した留学生数(短・中・長期)は1964名にも達しています。
■国際交流・探究プログラムで見つけたものは「自己肯定感」
また留学には、短期(2週間)・中期(数カ月)・長期(1年間)と、多様なプログラムが用意されていることも同校の魅力です。オーストラリア海外研修・アメリカ短期留学・カナダ長期留学を総なめした、現在高3の女子生徒に、神杉校長が「留学経験によって、あなたが一番得たものは何?」と尋ねたそうです。彼女の答えは、英語力でも視野の広さでもなく、「自分で選択できるようになったこと」でした。
神杉校長:「留学中にホストファミリーや友達と話していると、彼らは『わかるよ』と肯定した後に、『でも、私はこう思う』と必ず自分の意見を言うと。『私は物心ついた時からいつも親が決めたことに従ってきて、自分で決めたことがなかったこと気づきました。これからは大学選びも含めて、自分で選択します』と。彼女が手に入れたものは、自己肯定感だったのです」
実は、今春にディプロマ修了第1号となった卒業生の男子も同じことを口にしていたそうです。「苦しいこともいっぱいあったけれど、最後までやり切ったことで、なぜ学ぶのか、なぜ生きるのか、自分は何をしたいのかを考えるようになった」と。
神杉校長:「『留学』と『U.S.D.D.P』という別々のプログラムに挑んだ2人が、まったく同じことを言っていました。つまり、これが本校の国際交流プログラム、探究プログラムの本質なのだと思います」
教育では促成栽培はできません。同校の6年間で培われたその成果は、10年後、20年後に生徒たち自らが確実に花を咲かせていくはずです。
神杉校長:「時代の先端をいく教育者として、今何を行うべきなのか。それは我々教員が常に考え、話し合っていかなければならない命題です。学校行事も授業も部活指導も、そして探究活動も、去年よりもほんのひと工夫という気持ちを常に持つこと。ですから『JFGLP』も完成ではなく、どんどん更新していこうと考えています」
日本の学校に在籍しながら、オンライン授業を通してアメリカの名門高校卒業資格を取得できるプログラム。2つの国の卒業証書(デュアルディプロマ/ダブルディプロマ)を取得できるものです。修了生は、アメリカ・カナダ・イギリス・オーストラリア・U.A.Eの5カ国31大学への推薦入学(100%学部入学)が認められるほか、全米200大学が加盟する給付型奨学金制度(授業料最大60%免除)の参加資格を得ることも可能。
同校では2024年度に第1期生が修了し、その彼は現在、法政大学グローバル教養学部に在籍中。今後の海外留学も視野に入れながら、グローバルに活躍していきたいと勉学に励んでいるそうです。
このように、さまざまな魅力を持つ同校ですが、一番の魅力は何といっても「生徒の高い人間力」、そして「生徒と先生の距離が近く、アットホームな校風」です。最後に、校長にまつわるそんなエピソードをご紹介しましょう。
「しいのき祭」(文化祭)には実はヒット商品があるのですが、なんとそれは神杉校長の顔の缶バッジ。PTAの保護者会が作ったもので、毎年完売しています。家の神棚に飾ったり、受験勉強をする机の前に貼り付けている生徒もいるのだとか。
もう一つ、神杉校長は昼休みに中1生とドッジボール対決を行っています。最初は校長1人:生徒3人だったのが、今では1人:20人に。でも、校長は未だ負け知らずなのだそうです。
神杉校長:「高校生には負けてしまいますが、中学生相手なら5回勝負して、5回私が勝ちます! 勝って意気揚々と引き上げる姿はカッコいいじゃないですか。生徒たちはうなだれて床に伏せたりしていますが(笑)」
