【ドルトン東京学園中等部・高等部】未来を見据えた学校Vol.1
my TYPE第14号(2025年9月21日発行)掲載
記事:中曽根陽子 教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
ドルトン東京学園中等部・高等部
今回私が注目するのは、ドルトン東京学園 中等部・高等部です。校名のドルトンとは、学習者中心の教育メソッドの名称です。そのメソッドに基づく教育を行う日本で唯一の中高一貫校として、7年前に開校したドルトン東京学園 中等部・高等部(以下ドルトン東京学園)。従来の日本型教育とは異なる、自律的な学習者を育てる学習者中心の教育メソッドに基づいたユニークな教育を行っています。昨年度、初めての卒業生も出て、学校として次のステップに進む段階に入ったと聞き、現地を訪問。実際の授業も見学し、安居長敏校長先生に学校の今とこれからについて、話を伺いました。
ドルトン東京学園は、東京都調布市にある中高一貫校です。ドルトンプラン教育と聞いて、それがなにかすぐに分かる人は、かなり教育に詳しい人でしょう。ドルトンプランは、今からおよそ100年前に、米国の教育家ヘレン・パーカストによって提唱された、学習者中心の教育メソッドで、モンテッソーリ教育やシュタイナー教育、イエナプランなどと共に、世界7大教育メソッドと言われています。それらの共通点は、子どもの個性や自由を尊重し、学びに没頭する環境を作るところです。ドルトンプランの学習者中心の教育メソッドは、大正時代に日本でもいっときブームとなりましたが、戦争に向かう時代性もあり、その思想が根付くことはありませんでした。それが100年経った今、日本でドルトン東京学園が開校し再び知られるようになったのです。運営母体は河合塾で、50年にわたる幼児対象のドルトンスクールでの実践をベースに、中等教育の学校として7年前に開校しました。中等部・高等部もドルトンプランに基づいたユニークな教育を行っていますが、日本の学校教育法で定められた一条校です。具体的にどのような教育を行っているのでしょうか。
「主体的に学び、探究・挑戦し続ける姿勢」を育む3つの柱
ドルトンプランには「自由」と「協働」の2つの原理があり、その原理に基づいた「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」の3つの柱を軸とし、一人ひとりの知的な興味や旺盛な探究心を育て、個人の能力を最大限に引き出すことを大きな特徴としています。 「与えられた問いだけでなく、自分が見つけた問いに取り組む。決められた正解を探すのではなく、解のない課題にとことん向き合うといった、自ら学びに向かう姿勢を大切にしています。これはまさに、今の学習指導要領が目指す方向と同じで、ハウス・アサインメント・ラボラトリーという3つの柱は、学習指導要領が掲げる主体的・対話的・深い学びと一致しています」(安居校長)ではそれぞれについて具体的にみていきましょう。
アサインメント
これは、学びの羅針盤とでもいうようなものです。ドルトン東京学園には定期テストがありません。その代わり生徒は単元やテーマごとに先生が用意したアサインメントと呼ばれる課題シートをもとに学びを進めていきます。アサインメントには、なぜこの単元を学ぶのか、学習内容の背景、どれくらいのペースでやっていくのか、などが書かれていて、いつまでに何をし、何ができるようになるかを生徒自身が把握できるようになっています。最近は、「自分のペースで、学びを組み立てる道具」になっているそうです。実際、生徒たちは、学習指導要領をはるかに越えた内容をやっており、進捗も含めて先生が細かく確認し、保護者にも公開しています。
ハウス
ドルトンには一般の学校のようなクラスはな く、授業は1グループ約25名の4つの学習グルー プに分かれて行われます。それとは別に、ハウス と呼ばれる異学年の生徒で構成されるコミュニ ティが作られています。ハリーポッターの世界を 想像するとわかりやすいでしょう。生徒たちは、 いずれかのハウスに所属し、朝のミーティングや行事はハウス主体で行います。異年齢による教育 は、ドルトンプランの重要な位置づけであり、ハ ウスの運営は3 〜6年生が中心に行い、上級生は 下級生の学習や生活のサポートをします。 中高は、思春期の子どもたちの集団です。思春 期の成長には有能な他者が傍らにいることが大事 なのですが、この時期の子どもたちは、先生や保 護者への信頼が下がる時期でもあります。反対に 信頼できるのは友達や先輩です。この時期は、年 齢が近い集団で育ち合うことが大切で、それがハ ウスなのです。
ラボトリー
自由に学ぶマインドやスキルを身につけ、自分の探究を行うことができる時間で、学年ごとに設定されたテーマに取り組む基礎ラボと、各自の興味関心を広げる探究ラボの時間があります。探究ラボには、教員や生徒が主催するテーマラボと、自分でテーマを決めて学ぶオフィスアワーがあり、この時間になると、生徒たちは自分の学びたいことを求めて移動します。
一方、基礎ラボは、地域や人との関わりを通して興味関心を広げることから始まる、社会に踏み出す力を育む探究プログラムです。学年ごとにテーマが決められており、1年生がドルトンの保護者による講演やワークショップを通して、世の中・社会・仕事・職業・生き方に関する感度を高め、2年生は、自分が転職エージェントだったらという設定で、職場体験を経て得た学びをレポートにまとめる「よのなか教室」「しあわせ教室」「まちなか教室」を履修します。3年生で、中等部の学びの集大成としてマイテーマを設定して1年かけて探究をし、5000字以上のレポートにまとめます。4年生になると、8月に全員で参加するアジア研修に出かけるので、その事前・事後学習がテーマです。このアジア研修は、インド・インドネシア・マレーシア・スリランカの4カ国から訪問先を選び、各国の社会課題と向き合います。現地では、インタビューや対話を通して、課題解決の仮説を検証します。取材時には、ちょうどそのための事前学習が行われていました。この日のお題は消費。「スリランカで2022年以降続く経済危機で多くの家庭が困窮している。日本の高校生としてどのような支援ができるか?」という問いに対して、グループでさまざまな角度から探究していきます。生徒の一人に話を聞くと、「今はこのお題に対して、あえてやってはいけないことに焦点を当てて考えています。例えば現地の貧困地域に行って、その現状を写真に撮って、それを自分の承認欲求を満たすためだけにSNSにあげる行為。それは消費ではないのか、そんなことを話しています」としっかりと答えてくれました。
海外研修は語学研修ではない
海外研修は語学研修ではない。そこで何を感じどう変容するかが大事
海外研修は、異文化に触れながら価値観を広げ、変化に適応する柔軟性や、多角的に分析し論理的に考える力を養うことを目的としていて、帰国後は得た知見をもとに更なる挑戦につなげていくことを狙いにしていますが、「特にアジア研修は、その前後で生徒たちが大きく変容します。3年生は全員オーストラリアのホームステイ研修に行きますが、それとは比較にならないレベルです」と安居校長は言います。恵まれた環境にいる生徒たちだからこそ、日本とは全く違う環境に身を置くことで心を揺さぶられるのでしょう。海外研修は、全員参加の研修以外にも、シリコンバレー研修や韓国国際交流、エストニア研修などいろいろあります。最近自身もエストニアを訪問してきたという安居校長は、「エストニアはIT先進国ですが、長い間侵略の歴史を経験している国なので、GAFAとは違い、ITによって国民が幸せになるためのイノベーションを起こそうとしているところに惹かれました」と言います。アジア研修もそうですが、社会に貢献し、より良い未来を創る意識を高めることも重要な学びの一つだと捉えているというドルトン東京学園。研修先の選択にも、この学校の目指す世界観が表れていると感じました。
中学入試情報誌『MyTYPE』とは
『MyTYPE』は、首都圏模試センターが発行する中学入試情報誌で、最新の入試動向や学校情報をわかりやすく紹介しています。偏差値データや合格者分析に加え、受験生の「タイプ」に応じた学校選びの視点が特徴です。学力だけでなく個性や学び方に合った進路を考えるヒントが得られ、保護者にとっても教育方針や学校生活を知る貴重な情報源となります。受験を通じて子どもの未来を見つめるきっかけとなる一冊です。今回は、2025年9月24日発行のmy TYPE第13号に掲載しました記事をご紹介します。
Vol.2につづく
- この記事をシェアする
